当店の販売方針
なぜ中近両用ではなく、近近でもなく、遠近両用なのか
なにがしかの視力障害があって日常に不自由があり、それが病気由来のものでなければメガネを掛けはじめるようになるわけですが、遠視であれ、近視であれ、乱視であっても、ある一定の年齢までは遠用メガネひとつで事足ります。遠用をまた常用とも称されるゆえんであります。
しかし老眼が始まる年代になってきますと、ことはそれほど単純ではなくなってきます。遠用に必要な度と老眼に必要な度が異なるからです。
本来ならば、目的や用途ごとの距離に合わせたメガネが複数必要になってくるところですが、それをひとつのメガネでまかなえるように工夫し、デザインしたのが遠近両用であり、中近両用です。
下図や次ページの図解にあるように中近両用も遠近両用も基本構造はよく似ています。遠用部、中間部、近用部が縦一列に並んでいて、その部分を通してそれぞれ遠方、中間、近方を見ていきます。
ただ遠近ではなく中近という名称が示すとおり、中近両用はレンズ全体における中間部の割合が大きく取られていて、それに対し遠用部を極端に狭くした構造になっています。これは遠距離の見え方を多少犠牲にすることで、屋外よりもむしろ室内で使いやすいメガネとして発案されたことによります。
たしかに現代社会では、遠方を見ることよりも近くのものを見ることの機会をより多く要請される時代となっていますので、その限りにおいては使いやすいメガネのように思えます。
しかし実際、私が中近両用をいくつか試した率直な感想をいえば、想像していたような使いやすさとはほど遠く、むしろ使いづらささえ感じました。
それはこういうことです。
中近両用は中間距離の見やすさを優先させた設計になっていますので、遠用部から近用部のあいだに設けてある中間部(累進帯)を20mm以上の長めに設定しています。(遠近両用の場合は10~14mm)
すると中間部の脇にある空白部分も同時に長くなります。じつはここは累進レンズに付きもののユレやユガミの多い部分で、連続して変化している度数のカーブを脇に逃がし調整することで累進帯を成立させているのです。(このページ下の中近両用メガネ図解参照)
したがって前方を見たときに、視線を遠くへやると端がぼやけ、視野の狭さとして感じられますし、顔を左右に動かしたときにはユレが強く感じられます。
それに対して遠近両用は遠用部を広く取ってあり、ユレやユガミの集中している部分を斜め下方向に逃がし込むことで違和感も中近両用ほど感じられず、当然、遠用の視野も広く見やすくなります。(次ページの遠近両用メガネ図解参照)
そのほか中近両用は、遠方の視野ばかりではなく近距離にしても視界の広さ見やすさの点で充分とはいえず、老眼を見やすく改善したものでは老眼部分のレンズ下部に占める面積が広がり、今度は歩行の際の違和感が強くなりすぎるきらいがあります。私の見立てでは、これも累進帯を長くした中近両用ならではの構造上の必然的帰結なのだろうと思われます。
いずれにしても、見やすくかつ違和感も少なく、というこの種の両用レンズに求められるアンビバレントな課題をどう両立させ克服していくかという点において、それをバランスよくある程度解消しえた一部の遠近両用との差は歴然としています。
したがって、さまざまな観点からどう転んでも中近両用をおすすめする理由は見いだしにくく、中間も老眼も同時に見やすい遠近両用を当店では積極的におすすめしています。
次は近近メガネに関してですが、通常の老眼部(30~40cmの距離でピントが合う度数)の上部にそれよりもいくらか弱い度(40cm~1mの距離でピントが合う度数)を配置することで、手元の見え方に奥行をもたせた設計になっています。デスク周りを広く見やすくすることで、趣味や仕事などでの長時間にわたっての作業に特化した目的志向型メガネです。(このページ下の近近メガネ図解参照)
したがって老眼よりも見える明視域(ピントが合う範囲)が広がり、机の上という限定空間に限っていえば一見使いやすそうなメガネで、実際、役に立つ場面も少なからずあるにはあります。ただあくまでそのときだけに適したメガネであって、遠近両用のような汎用性はありませんので、それ以外の目的や用途のときには、別のメガネに掛け替える必要がでてきてしまいます。
そして、私が実際に近近メガネ使用した感想では、机の上での視野、奥行の広さがかえってそれよりも遠くの距離が見えないことへの不足感、ストレスとなり、常にある種の中途半端感は感じざるをえませんでした。
人間の目はある固定された範囲内を見つづけているわけではなく、視線移動は瞬間瞬間めまぐるしく変化しています。合間合間に目を遠くに向けることもよくあり、その際は視界全体がぼーとしてしまって遠くが見渡せないことへの不満が募り、思わずメガネを外したくなってしまいます。
また近近メガネをどのような作業に使っていくかによっても違いますが、いっそのこと老眼単体のほうが、明視域がもともと狭いぶんかえって作業自体に集中でき平面的視野も広く、目の疲れを感じることも少ないように思われます。
以上、結論としましては、快適に使える遠近両用メガネがひとつありさえすればそれ以外のメガネはいっさい必要ないといいたいところですが、読書などの長時間にわたる作業にもっと近くが見やすく疲れにくいものをとお望みの折りには、当店では老眼単体メガネをおすすめすることにしています。
私は必ずといっていいほど就寝前に本を読みそれが習慣となっていまして、寝転がって本を読む場合、あらかじめ度数の配置が定まっていて視線を下げなければ近くのものが見えない遠近両用ではそれは想定外の使い方となってしまい、老眼鏡はその弱点を補える唯一のメガネでもあるからです。
-図解・写真は拡大できます-
遠方が広く見渡せるが、老眼が進んでくると近くを見る際にはメガネを外したり、老眼鏡に掛け替えなければならない。
近く専用のいわゆる老眼鏡。手元の読み書きの際には便利であるが、それ以外の距離のものを見るときは外さなければならない。
一般的な老眼鏡よりも焦点距離を伸ばしてパソコンなど机の上での作業に特化した設計になっているが、顔をあげると全体がぼやけてしまうので快適さの点で問題がある。
遠くを犠牲にしてパソコンやテレビなど室内の中間距離を優先した設計になっているが、中間の累進帯が長いことでかえって遠くの視野が狭く違和感も強く感じられる。
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